THE MATCH2022が終わった。

そして6年に及ぶ那須川天心と武尊の物語も結末を迎えることになった。

 

結果は那須川天心の完全勝利。

3Rを通して武尊選手の良さはほぼ出せずに完封されてしまったと言える。

 

では天心選手がアウトボクシングでポイントアウトを狙ったのか?
それも違った。1Rでは狙いすましたような左フックのカウンターがヒットし芸術的なほどのダウンシーンを生み出した。

スロースターターの武尊選手のまだ固くなって、天心選手のスピードに目がなれていないところに研ぎ澄まされたような一撃だった。

 

思えば武尊選手は入場のときから、追い詰められた表情だったように思う。
天心選手は対象的に勢いにのった表情で前回の風音戦よりも充実しているようだった。

 

案の定、武尊選手の動きはいつもよりも固く、
それを払拭するようにラフファイトになってしまった。

その姿はとても切なく、6年間の思いや葛藤、
実現できた喜びと終わってしまう喪失感などが入り混じっているように見えた。

 

武尊選手にとって、ある意味このマッチメイクが実現した段階でひとつのゴールに到達してしまったんだと思う。

 

しかし天心選手にとっては、通過点であり
その先のキャリアが見えている。

この心理的な差も非常に出ていた試合だった。

 

3R目、エンジンがかかってきた武尊選手の鬼気迫るラッシュは
鳥肌がたつほどの殺気だった。
この大会に出ている誰よりも殺気立っていた。

 

しかし、武尊選手の動きは残酷なほど天心陣営に攻略されており
笑ったあとのパターンすら研究されていた。

 

天才に努力と戦略が味方したとき、誰も勝てない領域に達してしまった。

 

もちろん、武尊選手にも勝てる可能性はあった。
しかし武尊陣営はいつもどおりのファイトスタイルで戦ってしまった。
それは後出しジャンケンの相手にじゃんけんで勝つようなものだ。

 

現代格闘技はもう戦略の時代に移ってしまっている。

試合が終えたあと
嗚咽の中頭を下げ続ける武尊選手はあまりにも切なく見えた。
武尊選手はこの試合にたどり着いた時点で
自分の運命を殴り飛ばしてKOしているのだ。

 

そして、団体の壁をもぶち壊して
多くの名試合を生み出した。

 

さらに、地上波ではなくPPVでの格闘技イベントの成功という新しい時代の幕開けすら演出してしまった。

 

 

これは格闘技業界全体にとって時代の転換であり
格闘技で飯を食べていける人は間違いなく増えると思う。

 

確かに地上波では移らなかったことで一般層の目には届かなかったかもしれない。

 

でも、広告の世界では100人に浅く届けるよりも1人に深く突き刺さる方が重要な場合もある。

 

天心と武尊の物語は多くの人の心に深く突き刺さり
ただ野蛮な殴り合いではなく、ドラマであり映画であり
人生をかける価値のあるものであると伝えることができたと思う。

 

武尊選手は顔をあげ、胸を張り
これからも格闘技をひっぱる象徴であってほしい。

 

魔娑斗や山本KIDがそうであったように。